〇流行性角結膜炎とは?
流行性角結膜炎は、アデノウイルスと呼ばれるウイルスに感染することで引き起こされる目の病気です。
アデノウイルスには多くの種類がありますが、特に D 群の 8 型、19 型、37 型、53 型、54 型、56 型などが主な原因となります。
このウイルスは非常に感染力が強く、時に地域や学校で大きな流行を引き起こすため、「はやり目」と呼ばれています。
アデノウイルスは温かい環境を好むため、特に 8 月を中心とした夏に多く見られますが、一年を通して発生する可能性があります。
年齢層では 1 歳から 5 歳くらいのお子さんに比較的多く見られますが、大人を含む幅広い年齢層で発症します。
症状
感染すると、約 1~2 週間の潜伏期間(無症状の期間)を経て症状が現れます。主な症状は以下の通りです。

- 白目(結膜)の強い充血
- 大量の目やにや涙(ひどい場合には、朝起きると目が開かないほどになることもあります)
- 異物感(「目がゴロゴロする」「しょぼしょぼする」など)
- まぶたの腫れ
- 耳の前のリンパ節(耳前リンパ節)の腫れや痛み(片目だけ発症した場合でも、その側のリンパ節が腫れることが多いです)
多くの場合、初めは片方の目に症状が現れ、数日以内にもう片方の目にも同じ症状が出ることがあります。
お子さんの場合は、目だけでなく発熱や倦怠感などの全身症状を伴うこともあります。
症状が重いと、まぶたの裏に白い膜(偽膜)ができたり、黒目(角膜)に傷がついたり、 炎症が及んで角膜が濁り、数年間視力障害が残る可能性もあります。
感染経路
流行性角結膜炎は、接触感染によって広がります。
感染者の目から出る涙や目やににウイルスが含まれており、 これらが手指を介してタオル、ティッシュペーパー、洗面器、ドアノブ、手すり、キーボードなどの物に付着します。
別の人がこれらの物に触れて、その手で自分の目をこするなどすると、高い確率で感染してしまいます。
病院内でも、医療従事者の手指や検査機器などを介して感染が広がることもあります。
空気感染はしません。
しかし、ウイルスは水場や濡れた衣類、タオルなどを介しても伝染し、 ドアノブなどの環境に付着した場合、約 1 ヶ月間感染力を持つと言われています。
診断
診断は、結膜の充血やろ胞(ぶつぶつとした隆起)、耳前リンパ節の腫れなどの所見から行われます。
眼科の外来では、迅速診断キット(免疫クロマトグラフ法)がよく用いられます。
これは、綿棒で結膜をこすり、その液を専用のキットに垂らすと、約 5 分~15 分程度でウイルス感染の有無を判定できるものです。
ただし、この検査は感度が低い場合があり、陰性であっても感染を完全に否定できるわけではありません。
治療
残念ながら、現時点ではアデノウイルスに直接効く特効薬は存在しません。
そのため、治療は症状を和らげるための対症療法が中心となります。
- 抗炎症作用のある点眼薬:炎症を抑え、症状の軽減を目指します。
- ステロイド点眼薬:炎症が強い場合や、角膜に炎症や濁りがある場合に使用されます。ステロイド点眼薬の長期使用は緑内障や白内障を引き起こす可能性もあるため、使用期間については医師にご確認ください。
- 抗菌薬の点眼薬:ウイルス感染に加え、細菌による混合感染を予防・治療するために用いられることがあります。
何よりも、十分な栄養補給と休養をとって免疫力を高めることが、ウイルスへの抵抗力をつける上で非常に重要です。
治るまでの期間と後遺症
発病から 7 日から 14 日程度で症状が改善することが多いですが、重症の場合や十分に休息が取れていない場合は 1 ヶ月程度かかることもあります。
症状が治まってきた頃に、黒目(角膜)の表面に小さな点状の濁りが残ることがあります。
この濁りが瞳の中心に残ると、「見づらさ」「光が反射して見える」「まぶしさ」「目のかすみ」といった視力への影響が出ることがあります。
この濁りは、抗炎症作用のある点眼薬で治療を続ければ次第に改善しますが、状態によっては治るまでに数ヶ月から 1 年以上かかる場合があります。
症状が落ち着いたからといって自己判断で通院や点眼を中断せず、医師が良いと判断するまで治療を続けることが大切です。
特に新生児や乳児では炎症が強くなりやすく、偽膜性結膜炎を起こし、細菌の混合感染で角膜に孔が開いてしまう場合があるため、注意が必要です。
感染予防対策
流行性角結膜炎は感染力が非常に強いため、周囲の人にうつさないための対策が最も重要です。
- こまめな手洗いと消毒の徹底:石鹸と流水で手をよく洗いましょう。感染者の涙の中には多量のウイルスがいますので、目を触ったらすぐに手を洗ってください。
- タオルや寝具などの共有を避ける:家族内でも、感染者とタオル、ハンカチ、枕などの目に触れる可能性のある物は別にしましょう。
- 入浴の順番を工夫する:感染者は家族の中で最後に入浴するか、シャワーで済ませましょう。湯船のお湯は残さず流し、残り湯を洗濯などに使わないようにしてください。
- 共用部分の消毒:ドアノブ、電気のスイッチ、手すり、キーボードやマウスなど、みんなが触れる場所はアルコール消毒をこまめに行いましょう。
- 目をむやみに触らない:目やにや涙が出る場合は、ティッシュペーパーなどで拭き取り、すぐに捨ててください。感染した目を触った手で、もう片方の目を触らないようにしましょう。
- コンタクトレンズの使用を控える:症状が出ている間は、コンタクトレンズの装用を控えてください。
- 人との接触を避ける:発症から約 2 週間は他の人に感染させる可能性があります。この期間は、できるだけ人との接触を避け、外出も控えることが望ましいです。
- プールは控える:目が充血していたり、目やにが出ている日はプールに入らないでください。
学校や職場への対応
流行性角結膜炎は、学校保健安全法で「第三種学校感染症」に指定されています。
このため、児童・生徒・教職員の方は、医師が「感染の恐れがなくなった」と判断するまで、学校への出席が停止となります。
必ず眼科医に治癒を確認してもらい、許可が出てから登校してください。
成人の方には法的な出勤停止の定めはありませんが、特に学校、医療施設、接客業など、 他人と接触する機会の多い職業に従事されている方は、職場の規定で出勤停止が義務付けられていたり、 伝染を防ぐために医師から出勤停止を指示される場合があります。
ご自身と周囲の方の健康を守るためにも、適切な感染対策にご協力をお願いいたします。
気になる症状がある場合は、早めに眼科へご相談ください。